(32)仕事(働く)をつくる 

ネットワークサロンは設立当初は「地域生活」をメインテーマとしてスタートし、たくさんの暮らしを支えるサービスや仕組みをニーズに基づいてつくってきました。例えば、通所やヘルパー、子育て支援や放課後の居場所などです。その営みは実は同時に地域の中に仕事をつくることにもつながり、100名ほど(かつては最大180名ほどになったこともある)が働く職場になりました。また、雇用関係にある労働だけではなく、もっと広く「仕事」ということをとらえると、さらに幅広く、思い返すといろいろな取り組みをしてきました。

前回、紹介したぽれっとで研修生をしていた高校生はボランティアとアルバイトの中間のような働き方をしていました。また、初期のころの本部に相談を経て発達障がいの青年が顔を出していて、コミュニケーションが苦手でもパソコンならできるということで、地域の空手教室の先生が名簿など書類づくりの仕事をまわしてくれたこともありました。今では3カ所に広がった啓生園の清掃業務は2001年のぽれっとスタート時に5名の若者たちのニーズからスタートしています。一般就労は厳しいし、従来の作業所のような福祉的就労では力を発揮できない彼らにはその中間的な働き方が必要でした。一緒に働くのはシルバー人材センターのおばちゃんたち。そして後に増えた老人ホームでは生活保護世帯のお母さんたちや他の施設の利用者とも一緒に働くなど、中間的な働き方を必要とする人たちは障がい者だけではありません。地域には実はそれぞれの生活背景や個々の状況によって働くことに配慮が必要な人たちはたくさんいるのです。

私は自分が働く上でもそれを痛感していました。障がい児を含む3人の娘を育てながら、離婚をして生活を支えるためには自分が働かなければなりませんでしたが、おそらく一般企業では無理だったと思います。これまで「働く」ということは会社のニーズによって仕事がつくられ、その仕事に合わせて人が働くことであり、働く人たちのニーズに応じて仕事をつくっていくという発想がなかったのです。景気がよくたくさんの仕事があるときはよかったですが、今のように仕事そのものがなくなると当然、障がいを持つ人や苦手なことやブランクのある人、子育てや介護中の人など他の人たちなど一定の層は仕事から排除されてしまうことになります。そして、仕事にありついた人たちもまた過労死や自殺、精神疾患などの問題もあり、今、改めて「働く」ということを考えなくてはならない時代だと思っています。だから、就労支援は決して特別に排除された人たちの問題ではなく、誰にとっても重要であり、これから働く場をつくることは自分たちの地域社会のあり方を問い直す重要なテーマです。

そのためには、会社や仕事に働く人が合わせるのではなく、働く人に仕事や会社を合わせていく発想がカギだと思います。地域で暮らす人たちが自分らしく働くことができるようにどんな仕事をつくっていけるか?もちろん、働く人たちの都合だけでは仕事は成り立ちません。両者のニーズのすり合わせも必要ですし、知恵も出し合わなくてはなりませんし、お互いにちょっとずつ我慢をしなくてはならないこともあるでしょう。また、これが正解という万能な方法があるわけでもありません。これまでの働くというスタイルに縛られずに創造すること、まずはできることをやってみながら、みんなで話し合い、考えていくことしかありません。地味な作業かもしれませんが、それが大事なのだと私は思います。だって、一人ひとりの背景やニーズを大事にするということは無駄もあるし、遠回りもするし、地味なことなのですから。でも、これまでそれを端折って犠牲にしてきたもの、失ったことを考え、これからの地域や子たちのことを思えば、地道な取り組みを蓄積せずしてできることはないと強く思っています。