(29)モデルプログラムでのお母さんたちとの出会い

2005年に釧路市が取り組むことになった生活保護世帯への自立支援プログラムにワーキングの委員として偶然関わることになり、「自立」とは何かさまざまな立場の人たちと考える機会ができたところまで前回でお伝えしました。

この年に会議の委員だけではなくネットワークサロンで実際に自立支援のモデルプログラムにも取り組むことになりました。この最初のモデル事業では対象が母子世帯に限られていました。釧路市は特に生活保護受給者における母子世帯の比率が非常に高かったからです。母子世帯のお母さんたちの自立を助けるために、当時の子育て支援拠点で親子の受け入れを行いました。また、まなぼっとのクッキングスタジオを使っての料理教室。さらに、「就労準備講座」をやってほしいと言われました。

親子サロンでの活動や料理教室までは自然に受け入れることができましたが、就労準備講座とはいったいぜんたい何を求めているのか?疑問に思ったので、市役所に聞いてみたところ履歴書の書き方や面接の方法など、就労意欲の喚起をしてほしいということでした。私は履歴書の書き方や面接の練習ならネットワークサロンには何のノウハウもなく、別の専門機関がありますし、お母さんたちが自立のために求めているニーズはそんなものではないのではないか?と強い疑問を感じました。そこで、市役所に出向き意見交換をして「自分たちだったら、まずはお母さんたちが何を必要としているか語れるグループワークをしたい」と申し出て、了解してもらったのです。

そうして、「働きたいママのための就職活動準備講座その1就職活動お悩み相談会」を開催しました。多少は工夫したもののそんな怪しい講座に自発的にきてくれるような人がそんなにいるわけがありません。それでも、託児付きであったこともあり奇特な4人のお母さんが参加してくれたのです。当日は「よくぞ、来てくれました!」とウエルカムムードでお母さんたちとフリートークをしました。その雰囲気は自分たちが障がい児の親の会でお母さんたちが集まっておしゃべりをしていたころそのものでした。いろいろな事情で生活保護を受けることになってしまった負い目や後ろめたさや挫折感。なんとか自立したいと思っても幼い子どもを抱えては就職活動もままなりません。また、若いうちに結婚し学歴や経験もないことからのハンディ。そして福祉を受けることによって味わう、心ない言葉に傷つく経験や世間や身内からのまなざしなど。そして、もっとも驚いたのは自分が受けている福祉制度である「生活保護」についての情報がまったく不足していることでした。

働いても保護費が減らされるから働き損だ(→控除によって手元に残るお金は確実に増えますし、各種就労のための経費も出ます)、保護を受けていたら幼稚園は行けない(→一時的な経費の立替が必要にはなりますが、通うことは可能)、車は絶対に持てない(→就労や家庭状況によっては一部認められることもある)など誤解や噂が多いのです。それから、担当のケースワーカーさんへの不信感や不満もたくさん出てきます。ワイワイと自由に当事者同士語る時間はあっという間に過ぎました。私たちはその結果を受けて、企画を修正して「ズバリ答えます『就職についての疑問・質問、噂の真相』」と題して、具体的な内容を示して情報交換の場を呼び掛けたところ、15名以上の人たちが集まったのです。さらに盛り上がったことは言うまでもありません。料理教室でもこのグループワークでも当事者性を共感して何かに取り組むことは参加者にとっても、そして私たちにとっても非常に貴重な経験となりました。

この機会によって改めて「自立」について考えさせられました。人は誰もがそれぞれの中に「自立」の種を持っているけれど、それが芽を出し、花を咲かせるためには必要な条件があります。放っておいても芽が出る種はたまたま条件のいいところにまかれただけで、決してその人の力だけ芽が出るわけではないのです。どんな種でも芽を出し花を咲かせることができるような応援をすることがおそらく「自立支援」なのだと思います。