(19)お金のこと その2

前回に引き続き、貧乏物語の続編を紹介します。2003年に支援費制度が突然降ってきて、それまでやりくりして実施していた事業に公的なお金がついてくることになりました。予算を立ててみると年間収支が億単位になることが判明。庶民の私としてはちょっとドキドキしながらも、「億っていっても何も今までとは変わりないな〜」という気持ちでした。

それよりもなによりも年度当初に待っていたのは資金繰りのための初借金でした。支援費制度はサービスの実績報告に応じて2ヶ月後にお金が振り込まれる仕組みです。つまりは新しくスタートする際には最初の2ヵ月は収入なしで支出だけはしっかりかかるのです。そのため、ぽれっと2か所、PASS、ぽれっこ(当時はまだ1つ)、グループホーム1か所分の2ヶ月分の運転資金が必要となり、さすがに銀行から融資を受けようということになりました。しかし、銀行にコネもなければもちろん信用もありません。何とか長年の付き合いの医師に頼んで税理士さん経由で地元の信金が相談に乗ってくれて無事に800万を借りることになりました。

ところがほっとしたのもつかの間、制度のスタートによってニーズがあふれ出し、予想以上に事業所は増えていきます。5月には2か所、10月にはさらにもう1か所と児童デイサービスを新設することになりました。最初に借りたお金は当初の想定分だけです。あっという間に現金は底をつき、資金繰りがぎりぎり状態になりました。その年からようやくもらえることになった私の給料も貸し出し、あちこちからかき集め、何とかしのいでいましたが、ついに12月に金策は手詰まりとなりました。当時の給与体系は作業所の補助金の支給システムに合わせて作ってあったので12月にボーナスがあったためです(現在はサービス費の支給に合わせて毎月均等の支払いになっていますが、初年度は何も考えずに支給方法をそのままにしてしまっていたのがそもそも失敗だったのです)。

どう考えてもボーナスの支給はできないため、スタッフの皆さんには一部を3月末に支給することで了解してもらいましたが、その頃には私はへとへとでした。次々に増える利用者、それに伴って事業所を増やす。するとお金が足りなくなるのです。もう少し社会的信用があれば助けになったのかもしれませんが、当時のNPOの認知度は低く、ましてや障がい児の親たちが始めた福祉事業でいつもそんな自転車操業では信用されるわけはありません。内心は「こんなに繁盛してるし、2ヶ月分の運転資金で現金がないだけなのに。利用してくれる人がいる限り会社としては経営の展望は明るいのに」と思うのに、対外的にはなかなか通用しないのです。ある時は車のリース契約をするのに2年分を先払いしないと貸せないと言われたこともありました。

そんな12月に札幌で仕事のついでにNPO関係者の忘年会に参加しました。運営について身近に悩みを共有できる人はいなかったので、道内でNPOの活動をしている人たちが集まる場で冗談半分に金策の苦労話をしました。すると、長くNPOに関わっている札幌の先輩が「そういうときには、ユメサイケンだよ」とおっしゃいました。「ユメサイケンって何ですか?」と聞いてみると「夢債券」とのこと。つまりはNPOが独自の債券を発行して、夢を託して買ってもらうという仕組みらしいのです。NPOなどの活動を応援するやり方としては寄付が一般的でしたが、債券という方法はお金を借りる仕組みです。何の拘束力もない紙切れと引き換えにお金を託すのですからよほど信頼をしてくれていないとそんなものは見向きもされないのです。

私はこの債券の話を聞いて「とてもいいアドバイスをもらったのかもしれない」と思いました。それは金策が尽きたことへの解決策とでしてではなく、自分たちの活動の意義がどれだけ理解され応援されているかわかると思ったからです。怪しい紙切れにこの先を託してみようと思ったのです。こうして、先輩の冗談半分のアドバイスは思わぬ実行につながっていくのでした。(つづく)