(17)コミュニティビジネス起業家養成講座

ソーシャルビジネスや社会的企業という言葉が登場して、しばらくたちます。ソーシャルビジネスとは社会の様々な課題を解決するために展開されるビジネスで、福祉や環境、教育などのその地域において多様な業種や形態で実施されるものです。ネットワークサロンはその代表例として注目されることも多くありました。2010年1月には冬月荘をモデルとして経済財政諮問会議で内閣府から「フレキシブル支援センター」というソーシャルビジネスメニューが提案されています。また、社会的企業はさまざまな背景で社会的な排除にある人たちが中間的な労働ができるような職場のことです。

日本においてこれまでの主要産業として農林水産業や建設業などが台頭してきましたが、世界的な不況や少子高齢化など社会情勢の変化により衰退が著しいために、ソーシャルビジネスは新たな形態として最近特に期待されているようです。しかし、ネットワークサロンがそうしたことに注目したのはずいぶんと前なのです。2003年の2月~3月にかけてすでに「コミュニティビジネス起業家養成講座」という事業に取り組んでいます。もともと、道立市民活動促進センターの委託でコミュニティビジネスについてお勉強するタイプだったものを、「私たちがやるのならば、『起業』を意識するやり方でしか考えられない」と実務型として提案し直して行いました。

ハローワークにもチラシを置かせてもらい、20名ほどの受講生が集まりました。ちょうど2003年の4月から入社予定だった新人さんたちにも後半の講座には一緒に参加してもらいました。まずは、地域の課題を知らなくてはならないと、それぞれの福祉分野に詳しい活動家のみなさんから地域事情について学んだり、ビジネス手法については地元の元気な企業の社長さんにエネルギッシュに話してもらったり、最後には受講者でそれぞれ自分が立ち上げたい事業を人、場所、お金その他を具体的にシミュレーションし、発表しあいました。

半ばお願いされて年度末のいろいろと忙しい時期にバタバタと実施した事業でしたが、やってみるとなかなか面白かったです。自分たちの新年度の事業のシミュレーションもついでにしたり、初めて出会う受講生の皆さんや講師の方たちと情報交換したり、シミュレーション用のシートを作ったり、非常に創造的で協同的な仕事でした。そして、何と嬉しいことに受講生のお一人がその講座をきっかけにして実際に託児事業を立ち上げました。

母子家庭で子育て中のその方はまさに自分の経験を生かして、託児の出張サービスから産休などの家事のお手伝いなどきめの細かいサービスを行い、のちには託児ルームも開設しました。当時、ゆうゆうクラブで講演会などの団体託児を受けていたのですが、そういった託児も徐々にお願いするなど、その後の連携も多くあります。2003年にソーシャルビジネスの起業に着目して講座を開いた自分にも感心しますが(自画自賛です)、一念発起して実際に起業して、今も事業を続けている受講者さんにも多大なる敬意を表します。

ときに「ソーシャルビジネス」なんて横文字でカッコ良く表現し、不景気からの救世主のようなおかしな注目のされ方をしていますが、本当は自分たちの身近な課題にどれだけ関心を持ち、自分のこととして解決に向けて行動できるか?その一つの形として事業があるだけなのです。だから、ネットワークサロンも起業した受講者さんも自分の悩みや問題に向き合うことから始まったし、実際に悔しい思いなどリアル体験が原動力にもなっているのです。ビジネスとしての成功よりも、そうした思いや本気が根本にあることがもっとも重要なのです。そういった意味で、母子家庭のお母さんたちは強い(自分も含めて?)と改めて思います。いつか働く母子家庭の母をネタに物語を書きたいと思います。