(14)最初で最後の「会社説明会」から思うこと
前回ご紹介した節目の年2003年の春。大きな制度改正で事業拡大が見込まれたため、まとまった求人を出すことになりました。現場のケアスタッフ6名と給食のパートスタッフ1名の合計7名です。法人として今後の現場を担っていく正規職員をこれだけ公募することは初めての経験でした。
ハローワークに出す求人票には雇用の条件などのほか、会社の概要、業務の内容などを紹介するのですが、限られたスペースではうまく説明ができませんでした。それはネットワークサロンがまずNPOであること、また単なる福祉事業所ではなく地域づくりをしていくという点、親たちやいろんな地域の人たちの思いからつくられた組織であり、会社組織の利益ではなく公益性を大事にする存在である点など、通常の求人票を出している会社とは性質の異なった存在であるからでした。つまり、一般的な会社とはちょっと違う存在なのです。私は、これから働こうとする人たちには、その違いをちゃんと説明して理解してもらう必要があると思い、半分冗談のようなノリで「会社説明会」を企画しました。
当時はまだまだNPOの認知度も信頼も低く、「NPOなんてところに就職して大丈夫?」と思われる時代で、そんな怪しい会社の説明会に来る人なんてそんなにいないだろうと思いながら、まなぼっとの30名定員の学習室を借りて、「誰も来なかったら、適当に帰ろう」と呑気に出かけました。すると、会場には老若男女が次々と現れ、あっという間に会場はいっぱいなり、急きょ隣の部屋も使わせてもらい2部構成にして説明を行うことになったのです。約60名の参加で質問もたくさん出て、参加者の皆さんの真剣さが伝わってきました。結局150名余の方から応募がありました。
バブルがはじけて年々厳しくなる雇用情勢の中、太平洋炭鉱が閉山し、多くの人たちが仕事を求めていたのです。このときにはさすがに、釧路で人を雇用することの重みを感じました。これまで、福祉サービスを必要としている人のために事業を展開する発想しかありませんでしたが、「職場をつくる」という意味で意義を感じた貴重な経験になりました。
ネットワークサロンの仕事のほとんどは対人援助です。物を売るのとは違って「商品」は物ではなく「スタッフの関わり」です。ですから、働く人が会社のサービス価値を決めると言っていいほどの重要な存在になりますので、採用試験は会社にとってとても大事な作業となります。一般的には会社が採用試験をすることは、「会社にとっていい人材を選抜する」作業になりますが、私は最初からそうした従来的な発想には違和感を持っていました。実は会社にとっていい人材なんていう基準はないのです。対人援助の上手下手など個々の能力の問題はありますが、最終的には人が命の仕事だからこそ、そこで働く人が「ここで働きたい、この仕事をしたい」という主体的な「気持ち」を持っているかどうかが大事なのだと思います。会社が働く人を選ぶのではなく、本当の意味で働く人の意志で職場を選んだかどうかが重要であると思うのです。ネットワークサロンに応募してくる人たちは経験、年齢、背景、能力、興味・関心とそれぞれにいろいろなものを持ってやってきます。
どんな背景であれ、どんなものを持ってきていても採用されたみなさんが他のところではなく「ここで働けて良かった」と心から思えることが大事だと思います。そういう意味では職場はみんなで良くも悪くも作っていけるもの。これからもみんなで知恵を出し合って、今働いている人もこれから入ってくる人たちも「ここで働けて良かった」と手応えを感じられる会社をつくっていけることを願っています。