虐待防止研修の報告

1月17日から2月9日までの間で11回の日程を組んで、障害福祉サービスの職員全員を対象とした「虐待防止研修」を行いました。終えてから時間が経ってしまいましたが、報告をしたいと思います。

虐待防止研修は障がい者虐待防止法に基づいて、研修が義務付けられていて毎年実施をするのですが、どんなふうにやろうかとても悩ましいです。特に「義務研修」となるととかく「義務だからとにかくやる」という実施することそのものが目的になりがちです。気持ちとしては「せっかく必ずやるのなら、少しでも効果的な研修をやりたい」と思っています。

今年度の実施のポイントとしては「コンパクトに問題意識をつかむ」「グループで話をする」「自分の問題として考える」という3つを考えました。

「コンパクトに問題意識をつかむ」

厚生労働省で公開している以下の動画を活用しました。

障害者虐待総論-成立までの経過、社会的意義 (youtube.com)

防止法成立前にそんなに昔ではない時期に実際に起こった虐待とその背景、障がい者やその家族が置かれている状況、福祉従事者が抱えるジレンマなど、実際に見聞きした内容を自分の言葉で講師の野澤さんがコンパクトに語ってくれています。

今回11回に分けて実施したので、私もそのたびにこの動画を見ました(つまり11回見ました!)が、何度見てもまったく飽きることはなく、深く考えるポイントがあり、大切な視点があることに頷きたくなる気持ちで見ました。

動画の感想は人によってかなり異なりましたが、いくつか印象的だった感想を紹介します。

【10年ほど前の自分たちの現場の常識や価値観を思い出した】

現場勤務年数が長いスタッフの数名は自分たちが入職した頃のことを思い出して、「入ったころは、暴れる利用者さんをどれだけコントロールできるかがいい支援者のような空気があった。どうしていいかわからず、大人しくさせられない自分は力不足だと思っていた」「先輩のやることが正しいと思うしかなかったので、力で支配することが支援だと思うようになっていった」「どこかおかしいと思いがらも、どうにもできなかった」など、集団の中で同調圧力が大きく作用することを感じました。

【一般企業の人が見た方がいい】

死にトリを通じてつながり、一般企業を退職して釧路に移住してきた若者は福祉経験は全くないのですが、最近少しグループホームの手伝いをしてもらっているので、研修を受けてもらいました。動画を見終わって「どうだった?」と率直に来てみたところ、全然関係ない感想言ってもいいですか?と前置きしながら、「前に勤めていた会社の人たちが見た方がいいと思う」と一言。つまり、辞めた職場では力の強い者が弱い者を支配しながら仕事が進むようなことが極めて普通にあったそうで、すぐにそれが浮かんだようです。

「グループで話す」

今回は3~5人の普段はあまり顔を合わせない事業所がバラバラのグループを組んで、動画を見て感じたことを話してもらうことにしました。

30分という限られた時間で、特に進行役を置いたりもせず、自由に話してもらいましたが、何をどう話していいか分からない雰囲気もありました。

改めて感じていること、考えたことなどをしゃべる重要性と難しさを感じました。

本当なら、普段から現場であれこれと感じたことを話し合う、見立てや支援内容について吟味する必要性があるのですが、これがけっこう難しいらしく、苦労をしている様子を聞きます。

来年度は意識して話をする機会を設ける研修を継続的に実施していこうと思っています。

「自分の問題として考える」

3つめは虐待というテーマをできるだけ自分の身近なことにつなげて考えてもらうということです。これがとても大切なのですが、難しいことを痛感しました。

動画を見て、グループで話した後に皆さんにレポートを書いてもらいました。

質問は4つです。

(1)研修で学んだことをもとに、自分はどんな状況(環境やコンディション)になるとどんな虐待(虐待の5種類含めていろいろな虐待があります)をしてしまいそうか具体的に考えて、書いてください。

(2)↑の虐待をしてしまうと思う理由は何ですか?自分の性格や価値観、育ってきた環境、得意不得意、事業所の状況など、自分がそう推測した理由を具体的に書いてください。

(3)①↑のような虐待を起こさないようにするために自分ができること、やるべきことを書いてください。

(4)②↑のような虐待を起こさないようにするために周囲に理解や協力してもらいたいことを書いてください。

まずは、虐待を絶対にしない人はいなくて、誰もがしてしまう存在であり、ただ、どんな時ならどんなことをしそうかというのは人によって異なるはずなのでそれを考えてもらいました。

私は夜間人工呼吸器を使用している重症心身障がいの娘と毎日隣で寝ていますが、夜中に何度も呼吸器が外れて何度もつけ直す必要があるときがあったり、中途覚醒して機嫌が悪く怒った声を出し続けて音楽を流してみたり、声をかけてみたり、体位交換をしてみたり、どうしてもダメな時にはトイレに連れて行って気分転換を試みたり、水を飲ませたりすることもあります。

普段は仕方ないなぁと思ってほどほどに対応できるのですが、忙しくて寝不足が続いている時や、ようやく眠りかかった時にやられたり、何度も繰り返されたり、ものすごく怒った大声を出されるとイライラしてきて、声が強くなったり、体位交換や介護が雑になります。

内心は自分だって疲れているんだし、これくらいは仕方がないと正当化しつつも、無抵抗で明らかに力の不均衡がある娘に申し訳ない気持ちが入り混じります。

子どもたちが小さいころには、それぞれ個性がバラバラの3人と過ごす中で追い詰められて苛立ち、軽くは叩いてしまったり、押し返したりすることもあったので、とても他人事とは思えずにイメージができます。

仕事となるとそこまでリアルにイメージができるわけではないかもしれませんが、とりあえず自分という人間について直視しないと書けないというのがポイントです。

ただ、これが予想以上に難しかったようです。自分のことを振り返る趣旨なのが、周囲のことについて書いてしまったり、自分の背景や内面の形成について探る(2)は特に難しそうでした。

若者の光るセンス

ただ、そんな中でも昨年の春に定時制の高校を卒業して、大川で住み込みで働いている若者がとてもいい振り返りをしていたので、紹介します!(新人さんは日にちを変えて複数回の参加を推奨したところ、2回参加してくれて、それぞれ違う視点で書いてくれました)

1回目

【やってしまいそうなこと】自分がこうしてほしい行動とは別の行動を利用者がしたとき(ご飯の時間なのに、ご飯を食べてくれないなど)にムリやりやらせようとするかも

【その背景】次の行動を自分の中でシミュレーションしてしまっていて、それが崩れてしまうことで、イラつきやテンパリ、自分の中のシミュレーションを取り戻そうとしてしまうから

2回目

【やってしまいそうなこと】知識がほぼない状態で知識があると思う人(先輩等)の行動や言動を見てそれをダメなことでもやっていいんだと思って、同じことをしてしまうかも

【その背景】人を見て覚えるという、とにかく人を見て(機嫌が悪いか、よいか)で生きてきたため、くせで人の行動や表情で動いてしまうのが抜けず、こうしないとというのがあり、別の行動をするのが小さい頃は少し躊躇するのがあり、今はそれは変化してきていると思っているが、やっぱりすぐには消えない

その他の振り返り

他にも、(2)の自分の背景については少ないながらも、自分の思考や価値観に目を向けて意識するレポート内容がありましたので、いくつか紹介します。

  • 精神面でのキャパシティがせまいところがあり、マルチタスクが苦手なので、一気に仕事量が増えると、追い詰められた気持ちになる
  • 基本的に他罰的、人に対して「自分はイヤな思いをしていることが多いから、あなたも我慢したらいいと思う」と考えちゃう
  • 前職で現場管理等工期を守らなければならない中で仕事の方法も、それに従って行ってきた習慣が出てしまいます
  • 背景には幼少期から感情的に振る舞う母と暴力等で抑圧するタイプの父という環境で過ごしてきたことで、適切なコミュニケーションや感情処理の土台となる部分が不安定(培われてこなかった)なのが関係していると思っています。
  • 目に見えるきまりは守らなければならない信念が首をもたげる
  • 自ら発信することが苦手で自己完結してしまうことが多いのが良くないところ
  • 中学時代から生徒委員や部活の部長等をしてきて、言うことを聞いてくれるのが当たり前と思っていた時期があり、大人になっても自分の意見を押し通すこともありました。
  • 悪いことをすると罰(ビンタされたりなぐられたり)が家庭であり、選択肢として頭によぎる時があります
  • 自分で選択し、決定することが不得意なため、慌てて通常よりも判断力が鈍くなり、わかりやすいことから行動しそうだと思いました

協力し合って見方を広げる

最後に高卒後すぐに入職し、ネットワークサロンでの就労歴が20年を過ぎたヘルパー事業所の責任者が2回参加して、以下のような気付きを得たとのことなので、紹介したいと思います。

今回2回目の研修を受けてグループで話した内容を考えてみると、「周りの目」というものも少なからずあるのかなと思いました。

他の人の時は落ち着いているのに自分の時だけ乱れてしまうという状況だと自分の気持ちが優先されてしまうのかなと思いました。(利用者さんの意思を考えず、自分の決めた行動をするように促す等)

今、実際の現場でもありますが、「どうしてあのスタッフの時は落ち着かないんだろう?乱れるんだろう?」というスタッフ同士の会話を聞くことがあります。自分がそのスタッフの立場になった場合、嫌な気持ちとともに何とかしなきゃ、落ち着いてきましたと報告したい、そんな気持ちになると思いました。

【自分でできること】

自分の気持ちや感情ですぐに行動をしない。利用者さんの記録をとる。今、目の前の現状と自分の感情は別のものと考える。

困った時に相談したり、話を聞いてもらうスタッフを見つける。

利用者さんの現在だけでなく、過去や未来も見ることで客観的に見れるようにする。

第三者の意見も聞いてみる。

【周囲に理解・協力してほしいこと】

一緒になぜそうなるのか考えてほしい。

自分の時はならないだけではなく、一緒に解決策を検討してほしい。

自分がやりすぎている時は注意してほしい。

「乱れた=悪い」ではなく、今までにない行動記録を共有できたというプラスの認識にするのは良いなと思いました。

新しい側面を見れて参考になった!と声をかけてもらえたら、心が軽くなります。

そう考えると、善し悪しを勝手に決めつけてしまう視点は危険なことだなと思いました。

支援には絶対的な正解がないのですが、正解がないからと言って何でもいいということではなく、とにかくチームで協力し合って、振り返り続け、問い返し続けるしかないのかなと思います。

積極的な虐待はさすがにする可能性は低いと感じましたが、消極的な虐待(他の人の不適切な対応を放置する、何となくおかしいと思っても言わない、思考停止になり、いつも通りでいいと思うなど)はまだまだ潜在化していると感じました。

専門的な教育を受けた人材が少ない中ですが、できる限りの工夫をして、それぞれの持ち味を発揮できる現場づくりを進めたいと思っています。