怒涛の日々

年度末が迫り、いつにも増して慌ただしい年度末を過ごしています。法人の運営に心を砕く立場として今年は物価の高騰が続き、最低賃金が上がり、しかし収入が必ずしも上がるわけではない現実の厳しさを、この年度末になって痛烈に感じています。

他にもいろいろな悪条件が重なったこともありますが、これだけお金について心配し続ける年は法人始まって以来、一番かもしれません。

幸いにして、いくつかの金融機関から融資を受けられることとなり、急場をしのぐことはできる見通しがつきましたが、これからはもう少し工夫や対策をしなければならないと肝に銘じています。

そうした背景には明確に福祉事業の市場化に伴う競争原理があると感じます。

福祉事業はもはや明確にビジネスの一つとなっているため、明らかに制度設計や地域の事情に応じて儲かる事業と儲からない(運営が難しい)ものがあります。

したがって儲かる事業は増えますし、儲からない事業は増えません。本来なら、ニーズに合わせて当事者の権利擁護のためにある福祉サービスが、福祉サービスの都合で利用が決まったり、都合が悪いと利用を断られたり、使い方へ条件を出されたりする実態がたくさんあります。

ネットワークサロンはそんな市場の状況を感じつつも、愚直に必要性があって、他で多くやっていることは選択せず、他がやらなくても必要とされることが何か考え続けています。

そうした姿勢が法人としての存在意義なのですが、いかんせんそうした理念を追い求めると、結果として今年度のように非常に経営が厳しくなってしまうリスクもあり、理念と現実のすり合わせが難しいなぁとつくづく思うのでした。

ほぼ愚痴に近い近況報告になってしまいましたが、この年度末に向けて期間限定プロジェクトが仕上げにかかっているので、お知らせします。

休眠預金事業が終了しました

2023年10月からスタートした休眠預金事業「真の社会参加創造事業」が先日2月28日をもって無事にプロジェクトを終了しました。約2年半の期間の中で、ダブルマイノリィ(セクシュアルマイノリティと発達障がいの二つのマイノリティ要素を持っている人たち)を主な対象として、相談、居場所づくり、就労など、暮らしやすい社会づくりについて実験的な取り組みを行いました。先日、事後評価の報告書を作成し、助成団体に提出したので、その報告書の概要を紹介します。(ちょっとお堅くて小難しいですが、興味のある人は読んでください)

 報告書要約

(1) 事業の背景と目的

本事業は、釧路市を拠点に全国を対象として実施された。主な対象は、ダブルマイノリティを中心としその他の社会的マイノリティも含む。現代社会において、これらの当事者は家庭、学校、職場などの主要なコミュニティから差別や暴力、排除を受けやすく、自己否定感や希死念慮、二次障がいを抱える悪循環に陥っている。本事業は、こうした困難を「特別な人への支援」という個人モデルの視点ではなく、社会構造やマジョリティ(優位者)側の意識の問題として捉え直した。「誰もが自分の属性をカミングアウトするのではなく、自然な自己表現として語ることができ、周囲がそれを受け止める社会」の実現を中長期的な目標に掲げ、当事者の自己表現の拡大と、マジョリティ側の意識変容を両輪とした活動を展開した。

  (2) 主な活動実績とアウトプット

事業期間中、以下のような多角的なアプローチが行われた。

  • マジョリティ向けツールの開発と普及: マジョリティが自らの「見えない特権」に気づくための「見えない当たり前チェックリスト」を開発・システム化した。このツールは法人サイトで公開され、釧路公立大学や青森県立保健大学などの講義、支援者向け研修など計10回活用され、のべ500名以上が体験した。
  • 住まいと働く機会の保障: 安心して日常生活を送るための拠点として、アパートや一軒家を活用し、計14室の個室を整備した。期間中に10名の当事者が滞在し、本事業を通じて5名が就労の安定や拡充、7名が多様な働き方の実践へと繋がった。
  • マイノリティ研究所の運営と語りの場: 常設の研究所を開設し、月1回の定例研究会や、当事者の経験談を募集して感想を返す「応答」の取り組みを実施した。また、noteやX(旧Twitter)を用いた情報発信を行い、当事者の可視化と社会への還元を図った。
  • 外部連携の強化: 評価検討委員に大学教授や当事者団体代表など10名の専門家を招聘し、多角的な視点から事業を検証した。特に大学との連携では、学生が事業に参画したり、新たな共同研究プロジェクトが発足したりするなど、大きな波及効果を生んだ。

(3) アウトカムの達成度と分析

短期アウトカムは概ね達成された。ダブルマイノリティ23名を含む計76名の当事者が事業に参画し、自己理解と自己表現の拡大が確認された。

特筆すべきは、当初「マイノリティからの自己表現文化の普及」を目指していた活動が、検討を重ねる中で「マジョリティの眼差し(社会モデル)を変えるアプローチ」へと深化・修正された点である。これにより「見えない当たり前チェックリスト」という画期的なツールが完成し、マジョリティ側が自分事としてマイノリティ問題を考える基盤が構築された。また、住まいの保障に関しても、地域協力者の厚意で格安の物件を確保できたことにより、目標を上回るキャパシティを実現した。

一方、課題としては、主要メンバーが他事業と兼務していたことによる実施体制の脆弱性や、事務体制の不安定さが挙げられた。また、自己資金の調達計画が不十分であり、最終年度に法人の財政を圧迫した点は反省材料とされる。

(4) 事業の社会的意義と今後の展望(出口戦略)

本事業は、社会的排除の構造を「ダブルマイノリティ」という存在を通じて可視化し、それを「社会課題」として問い直した点に大きな意義がある。

助成終了後の持続化に向けて:
  • 拠点の継続: 整備された拠点は、今後もダブルマイノリティ等を受け入れる下宿やシェルターとして運営を継続する。
  • ツールの収益化: 「見えない当たり前チェックリスト」は、研修パッケージとして有料提供することで事業化を図る。
  • 既存事業との統合: 当事者の語る機会は、法人が運営する「死にトリ」や「生きづLABO」などの既存サイトと統合し、知見を活かした活動を継続する。

結論として、本事業は当初の想定を超えて課題意識を深化させ、研究者や地元サポーターとの強固なネットワークを構築した。今後は、社会モデルを基盤とした分野横断的なアプローチをさらに模索し、誰もが排除されない豊かな市民社会の実現に向けた提言を続けていく。

また、この事業の評価委員として通して協力をしてくれた釧路公立大学の村上沙織さんが事後評価のレポートを書いてくれましたので、紹介します。

事後評価レポート

この事業の大きな成果は「見えない当たり前チェックリスト」です。

サイトにも特設ページを設けたので、興味のある方はご覧ください。

「見えない当たり前チェックリスト」:https://check.n-salon.org/atarimae-check

サイト「生きづLABO」がリニューアルしました

今年度単年度でこども家庭庁から補助金を受けて取り組んでいるサイト「生きづLABO」がリニューアルして、とても見やすくなりました。

「生きづLABO」:https://ikidulabo.com

同時に、兼ねてより開発を進めてきたチェックリスト「あなたの生きづらさはどこから?」も完成しています。

「あなたの生きづらさはどこから?」:https://ikidulabo.com/checklist/app

こども家庭庁の補助金によってスタートした研究員制度のおかげで、生きづらさをいろいろな形で自認する、あるいは興味を持つ研究員が50名以上登録して、今回のチェックリストの開発にともに取り組んだり、今は今年度のまとめとして小冊子を作る予定なので、その作成プロセスにも参画してもらっています。

今月中に冊子ができあがる予定なので、完成したらまた報告したいと思います。