結果の解説

見えない「当たり前」とは何か?

見えない「当たり前」は今暮らす社会(現代日本社会)の評価基準に対して、「社会的優位性(見えない免除)」と「社会的劣位性(見えない負荷)」をどれぐらい持っているのか見えるようにしたものです。いずれも「社会的」がつくのがポイントです。

 質問に答えると大きな5つの分野と、13のサブカテゴリー別に「見えない免除」と「見えない負荷」の両方が数字(ポイント)として出てきます。その数字は「自分にはこんなに免除がある」とか「自分にはこんな負荷がある」というとらえ方をしそうになりますが、「自分がこんなことを免除される社会なのだ」とか「自分のこういったことが負荷になる社会構造なんだ」という理解をします。それが社会モデルの見方です。

 「社会的優位性(見えない免除)」は「マジョリティの特権」とも言い換えられます。ここでいう特権とは、「マジョリティ性を多く持つ社会集団に属することで知らないうちに得てしまっている優位性」のことを指します。そして「社会的劣位性(見えない負荷)」は「与えられた素質や能力または環境や経験の中で生じるマイノリティ性による生きづらさ」のことを指します。どちらも個人の考え方や価値観や努力の問題ではなく、制度的差別、文化的差別など社会構造の中で生じているものです。

見えない「当たり前」は、優位性も劣位性もどちらももっていることが多いですが、「社会的優位性」は自覚しにくく、「社会的劣位性」は自覚しやすい特徴があります。

 「社会的優位性」を持っている側が意識しづらいことは、無自覚な差別や偏見、無理解、押しつけといった不適切な力の行使につながります。よかれと思ってやったことが相手を傷つけてしまったり、力を奪ってしまったりすることもあります。

 私たちは誰でも自分とは異なる感じ方や考え方、経験をした相手を理解することは難しいものです。ただ、比較的理解しやすい相手としづらい相手がいることは感覚的にわかるかと思います。例えば、多くのマイノリティにピアグループがあり、理解と共感が得やすいことでもわかる通りです。ただし、ピアグループだからと言ってみんながそれになじめるわけではありません。マイノリティ要素はとても幅広く、一つのテーマで似たような経験があるからと言って、他の要素においてのギャップがあれば、うまくいきません。

 支援の仕事をする人にとって、見えない「当たり前」が支援の質にとても大きく影響を及ぼします。これまでの支援者教育はマイノリティのことを理解する学びが主流でした。様々な障がいについて、セクシュアルマイノリティについて、虐待やDVを受けてトラウマを抱えた人について、アディクションの問題、アイヌ文化の問題、被差別部落の問題、外国人の問題などなど、いろいろな生きづらさについて理解をすることが大切だとされてきました。ただ、そうしたことを学んだからといって、すなわち理解が進むかというとそうでもありません。

 本プロジェクトでは、マジョリティがマイノリティを理解するような一方的な構図ではなく、一人ひとりが自分の中にある見えない「当たり前」に気づき、特に「社会的優位性」を意識する必要があることに着目しました。それはつまり「社会モデルで考える」ことでもあります。まず自分自身と向き合い、見えない負荷を背負わされている人から社会について気づいていくことで、私たちの社会の課題を見つけ出し、ともに解決していくことができるよう、この見えない「当たり前」を可視化するチェックリストを開発しました。

設問には聞いたことのない言葉が出てきたり、何を聞かれているかわからないこともあるかもしれません。もしも、そのようなところがあるとしたら、それはあなたがその設問に関連する領域においてマジョリティであることを意味します。チェックリストをやるだけで、これまで触れることのなかったマイノリティの存在に触れることができます。自分の知らないことが実はたくさんありそうだ、あるいはこれが普通だと思っていたことのほかにもいろいろな当たり前があるのだということを感じながらやってみてください。

チェックリストで何が分かるのか

チェックリストをやると数字で結果が出ますが、点数による絶対評価(いい悪い)は伴いません。単純に社会的優位性のある要素がどれだけあるのか、社会的劣位性のある要素がどれだけあるのかという傾向が見えるようになるものです。また、私たちがプロジェクトの研究の中で想定されている項目を中心にチェックリストを作ったことから、カテゴリーにも少し偏りがある側面もあります。できるだけ、網羅的に今の社会の中で評価されがちな内容、差別されがちな内容を盛り込んだつもりですが、どうしても抜け漏れや偏りがあることはご了承ください。

自分では気づきにくい優位性に気づき、他の人との違いを明らかにすることで、関わるうえでの留意点を見つけることができます。また、自分では気づかなかった生きづらさに気づき、自分を労い、社会の課題に気づくこともできます。これまでの人間関係や社会活動の中で漠然と感じていた関わりやすさや関わりにくさ、トラブルや違和感などの理由がわかることもあるかもしれません。

総合結果(グラフ)について

バタフライチャートは5つのカテゴリー(①性別や恋愛②お金と就労③差別や偏見④自分の資源⑤周りの資源)において「見えない免除」「見えない負荷」の量が示されます。

「見えない免除」のポイントは今の社会が標準的で正統で一人前という評価をされる要素の存在を示します。社会から「免除された苦労」の量とも言えます。それに対して、「見えない負荷」は不当な低い評価や処遇、差別や偏見、無理解に晒される可能性のある要素の存在を示します。社会から「押し付けられた苦労」の量とも言い換えることができます。

次の表は13のサブカテゴリーで見えない免除と見えない負荷の存在を示しています。

特にポイントの高い項目は2段階の色が付きます。「見えない負荷」で赤色がついた項目は苦労している社会課題と言えます。そして、「見えない免除」で青色がついた項目は特に社会的強者として挙げられる項目となります。

カテゴリーの意味と内容について

属性情報優位性あり優位性なしまたは不利益あり
性別や恋愛性別・ジェンダー男性シスジェンダー女性、トランスジェンダー、Xジェンダー、ノンバイナリー、性分化疾患
恋愛・性愛異性愛(ヘテロセクシュアル)モノガミーレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、アセクシャル・アロマンティック、ポリガミーなど
結婚・子育て契約した結婚して、子どもを持ち、子育てをする結婚しない/できない、子育てをしない/できない
お金と就労経済の不安/安定自由なお金があるお金の心配をしない自由なお金がないお金の不安がある
勉強と進学学力や学歴が高い学校や学業で評価される社会的信頼を得る学力や学歴が低い学業に躓きや苦労がある学校や学業で不当な扱いを受ける
就労の不安/安定容姿端麗大企業 正社員 資格や免許がある コネがある差別される容姿非正規就労、家庭内の役割、無職無資格、転職、空白期間
差別や偏見ルーツの少数性日本国籍、日本人両親がいる家庭周囲から普通と思われる家庭外国ルーツ、被差別部落、アイヌルーツ、社会的養護、ひとり親世帯、宗教二世、家族の犯罪や障がい、家柄など
属性や経歴の少数性健常 健康 清廉潔白障がい 病気 犯罪歴 差別されている職業 など
自分の資源自分の操縦難易度日常生活動作、社会生活行動が自由にできる身体機能や理解・認知、コミュニケーション、行動の障がい過敏、アレルギー、慢性的な痛み、PMS、虚弱体質など
心のケア難易度適応力、人づきあいが上手、セルフケアができる、ストレス耐性が強い、鈍感力アディクション、変化やストレスに弱い、対人が苦手/不信、セルフケア苦手、不安
心の安全基地受容され、肯定された経験がある/人間関係で脅かされる経験が少なく、安心安全の土台がある否定や強制された経験や暴力や抑圧に晒されたことが多く、安心安全の土台が弱い
周りの資源暮らしの安定や自由経済的に頼れる人がいる住む家がある 必要な社会資源にアクセスしやすい頼れる人がいない住まいを維持確保しなければならない必要な社会資源にアクセス困難
責任の重さ/軽さ自分以外の命や生活の責任を背負う必要がなく、身軽で自由自分以外の命や生活の面倒を見なければならず、責任を背負っている

ギャップにご注意を

サブカテゴリーにおいてマイノリティ要素が似通っている人同士はいわゆる「ピア」と言えます。ピアはそのカテゴリーに関しては見えない苦労が意識しなくても想像できるため、気楽に関わることができます。実際にピアグループや当事者団体として組織される場合もありますが、社会構造的にピアが集まる場合もあります。例えば、定時制高校では勉強や進学だけではく、背景にある経済的な面や家族のあり方などにも共通点が多く、居場所になる場合が多く見られます。

問題は、サブカテゴリーにおいてマイノリティ要素を多く持つ人と優位性を多く持つ人、いわゆるギャップがある者同士が関わったときに起こります。優位性は持っていて「当たり前」なので、自覚することが難しく、劣位性は違和感や気づきやすいため、何気ないやりとりや関わりで、マイノリティが違和感、無力感、悲しさ、ショックなどとして敏感に自覚することが多くあります。本来なら気づいた人がその場で伝えることができるのなら、違いから学ぶことができるのですが、そうした違和感やダメージは気づいたとしても、相手に伝えることはほとんどありません。なぜなら、言っても分かってもらえないという諦めがあったり、言っても反論されたり、逆に責められてしまったりと、伝えた方が痛い目に遭うことが容易に予想できるからです。実際にそうしたダメージを受けた経験がある人も多くいます。だから、言わないのです。そうなると、ますます見えない存在になります。

意識しないと見えない「当たり前」のギャップにより、知らないうちに社会的優位性がマイノリティを追い詰めたり、傷つけたり、排除してしまったりしないよう、チェックリストで可視化し、自分の優位性に気づいて、準備をすることがとても大切です。

私たちが暮らす社会を少しでも公正なものにするため、あらゆる人たちが社会に参加するためにも、見えない当たり前を可視化し、対話につなげることが大切だろうと思っています。

見えない負荷(押し付けられた苦労)の例

関連項目よくある言葉かけや関わり
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「やる気の問題だよ」「我慢が足りない」「自分の力で乗り越えるのが大事」
「ゆっくりと休んでください」「自分を大事にしてください」
「何でも相談してください」「困ったときには頼ってください」
暮らしの安定や自由「病院に行ったらいいですよ」「離婚した方がいい」「つらかった仕事を辞めてもいい」
責任の重さ/軽さ「最近、忙しくて旅行にも行けない」「忙しそうですね」「疲れた顔をしていますよ」

※こうした言葉を使ってはいけないという意味ではありません。

見えない「当たり前」の違いを知らないとこれらが無理解の言葉や相手にダメージを与える言葉になることがあるという意味です。

皆さんからも、言われて「ウっとなった」「ショックを受けた」「モヤモヤした」言葉や言ってしまって「やってしまった」と思いつく言葉や関わりの具体例を出してみてください。その背後に隠れている見えない「当たり前」の存在を探ってみましょう。

▶︎見えない「当たり前」チェックリスト