※この記事は2008年の月刊ボラナビ「NPOな人」の寄稿原稿を改変したものです。

世間知らずは強い(怖い?)

 NPO法人地域生活支援ネットワークサロンは障がい児の親が中心の任意団体から2000年に事業体として独立し、今年で8年目を迎えます。大それた夢や野望、そしてノウハウもないスタートでしたが、図らずして、今ではとても巨大なNPOとなってしまいました。釧路地域で、主に障がいを持つ子どもから大人までの支援、それに子育て支援や市民活動支援など地域づくりの事業を手掛け、正規職員60名以上を含む有給スタッフが100名を超え、拠点も20カ所以上、事業規模も3億円を超えてしまいました。

 こうした事態は時に客観的には、成功したNPO事例として、はたまた若手(?!)NPO運営者のホープとして注目され、「ここまでできた秘訣は何ですか?」とか「以前はどんなお仕事をしていたのですか?」「運営のノウハウはどこで学んだのですか?」と質問されます。しかし、そんな秘訣はどこにもなく、私が思い当たるのはただ一つ。「世間知らず」であることです。私は学生結婚、出産して、生まれた長女が重度の障がいを持っていたため、一度も社会に出たことがありません。つまり、組織運営のノウハウも社会人として経験もまったくないのです。実は、そのことがもっとも大きな武器ではなかったのかと今は思っています。

 「会社とはこういうものだ」とか、「社会ではこれが当たり前」とか、一般的な常識を知らなかったので、NPOをやっていく上でも、目の前にある資源量(カネ、ヒト、モノってことですが)に見合ったもっとも効率よい方法をひたすら追求し、本当にわからないので、何でも「わからないので、教えてください」、間違うのが当たり前なので「間違えちゃいました、ごめんなさい」と行き当たりばったりが、結果的には斬新で時代にマッチしたようです。でも、今になって改めて思うのは世の中には本来の意味や目的を置き去りにして無駄に行われている儀式的な仕事がたくさんあり、結構そうしたものに邪魔をされているということです。NPOは理念のために存在する会社です。いつも目的や理念に立ち戻り何事にも取り組むことは永久の原点であると思っています。

「岩盤浴」が教えてくれたこと

 事業内容は障がい児者福祉分野が多いので、どうしても福祉NPOに見えてしまいますが、私は福祉事業をしているというより福祉分野による地域づくりをしている意識が強くあります。私の最近の実務は障がい者福祉分野はめっきり減って、フィールドは地域経済、仕組み作り、人材養成へと広がっています。

 最近の目玉事業は昨年の10月からスタートした「岩盤浴」の運営です。もともと地元の有限会社が運営していた設備一式を買い取り、NPOの事業として福祉&コミュニティビジネスの発想を取り入れてコミュニティ岩盤浴としてリメイク中です。この挑戦にはいろいろな意味がありました。まずは、福祉中心の世界から脱して地域の普通の事業に取り組むことの意味。地域社会や経済がどうなっているのか自分たちが実際に感じとるためには福祉制度の枠から自ら出てみることが必要であると思ったからです。次に、地域資源の活用。そのままであれば継続しなかったであろう一つの事業・店舗を地域に残して活用するつまり経済活動を存続させることの意味です。釧路は北海道どこのまちも共通の課題ですが地域経済は衰退の一途です。そうした状況で雇用、消費を継続させる仕組みやノウハウづくりは重要なテーマとなっています。NPOがこれまでの実践を活かして経営を継続させることは重要な可能性を秘めています。そのために、岩盤浴の運営にはいろんな知恵をフル活用しています。例えば、地元のニットアーティスト(実は自閉症のお子さんのお母さんだったりします)がスタジオを店内に併設しているという手法。お客さんの相乗効果もありますが、家賃をいただかない代わりに店番を手伝ってもらう協力体制をとっています(これで人件費削減)。また、これまで法人で取り組んできた無農薬野菜の販売。今はシーズンオフですが、お客さんからの反応は非常によく、一方では農作業は障がいを持つ人たちや生活保護を受給している方たちの人気の自立支援メニューとなっていて、『作る側も買う側も嬉しい』魅力的な取り組みになりそうです。最近では岩盤浴のすぐれた保湿、保温効果を活用して天然酵母パンづくりの可能性を探り、試作品づくりを始めました。近頃は食文化に不安が多いなか、北海道の豊かな食材を活用し、福祉パワーを取り入れてリニューアル、リメイク、起業の可能性は大きいと思っています。決して簡単なことではありませんが、あれこれ考えるとわくわくするのです。

そんなことで、いつもいろんな怪しいことに取り組んでいる私を娘たちは「お母さんの仕事を友達に説明するのは難し過ぎ、てか私たちもわかんな~い」と言っています。自分でも自分の職業は何かよくわからないのですが、「NPOな仕事」っていう表現が最も適切なのかもしれません。数年後に自分がどんな「NPOな人」になっているのか楽しみです。

振り返って

これを書いたときから、16年が経ちましたが、相変わらずバリバリの「NPOな人」な気がしています…苦笑

岩盤浴をやっていたころ、店じまいのため毎日のように夜の店番をやっていて、岩盤浴で起こした天然酵母でパンを焼いてみたら見事に焼けて、本気でパン屋をやりたくなっていたことを思い出しています。(後日談として、見事に焼けたのはその1回きりで、その後に何度やっても、天然酵母が育ってくれず、パンが焼けなかったというオチがあります)

(日置真世)