2001年9月1.2日に札幌で行われた「ありのままフォーラムin北海道」の道内の実践発表で発表した内容です。300名以上の参加で、全国的な流れの説明や、活気溢れる懇親会など、盛り沢山のイベントでした。

ネットワークサロンが事業らしい事業を始めたスタート地点が「ゆうゆうクラブ」だと思っています。
今読んでも、まだ、障がい福祉サービスの制度が整備される前にまさにNPOの持ち味を発揮してつくりあげていった仕組みをうまくまとめていると感じます。このマインドをずっと大切にしていきたい…という原点回帰の取り組みです。

『サービスづくりは地域づくり』

1 地域生活支援ネットワークサロンとは?

 地域生活支援ネットワークサロンは人口20万弱の釧路市を中心とした地区の地域福祉を推進するために仕事をする会社です。今あえて、地域福祉を『推進するために活動をする団体』とあえて言わなかったのは、私たちの取り組みを正しく理解してもらうためです。私たちはNPO法人という形式をとって事業をし、サービスを提供している会社であって、ボランティア団体ではありません。まだまだNPOに関して正しい理解が広がっていないので、ちょっと表現に意識してみました。なので、地域生活支援ネットワークサロン(長いので以下ネットワークサロンとします)は地域福祉総合商社と言っていいと思っています。誰もが支え合い、いきいきと生活することができる地域づくりを目指し、地域で求められていながらあまり手付かずの分野を中心として事業を展開しています。メインの事業としては今年の4月からスタートした作業所や当初から行っている親子のための集いの場の開放、そして各種相談やイベントの開催、ボランティアの養成など、去年の4月に発足し、12月に法人格を得たばかりなので、目下のところ試行錯誤をくり返しながら地域のニーズに合った商品(つまり福祉サービスやシステム)を開発中というところでしょうか。
 現在取り組んでいることは大きく3部門からなり、1つは子育て支援部門、2つめに障害者支援部門、そして3つめに地域支援部門です。詳しく説明しているとそれだけで持ち時間がなくなりますので、今日は省略させていただきます。(興味のある方はパネルやホームページなどをご覧になって下さい。)3部門はそれぞれ、お互いに組み合わさったり、一緒になったりしながら、複合的に事業展開しているので明確な線引きはないのですが、これに事務局と併設しているフリーハウス(不登校の子どもたちの居場所)も同居しているので、福祉的な仕事も多いけれど、時には教育っぽかったり、まちづくりだったりと、まさに地域生活何でも屋という状態なのです。(実は、その対象やテーマを限定しないのが最大の武器なのです) 

2 地域支援部 期待の看板事業「ゆうゆうクラブ」

 その数ある事業の中で「ゆうゆうクラブ」は地域支援部の期待の看板事業と言えます。
 サービスの内容は簡単に言うと「必要な人手を1時間700円で提供します」ということです。つまり、子どもや障害のある人たちと生活する中で人手が足りない場合に、いつでもどこでも可能な限りお手伝いするスタッフを派遣したり、同時に場所を提供するサービスです。ただし、いくつかの特徴があります。スタッフは基本的には登録の非常勤スタッフ(しかもほとんど学生)なので、スタッフの技術や経験は未熟です。でも、やる気だけはあります。なので、利用者の皆さんにはあらかじめ伝えてあるのですが、派遣したスタッフをどう使うかは腕と知恵しだい、わがまましだい?!ということで、一緒にどうやって生活のお手伝いをできるのか考えていこうという姿勢を持っています。年間登録料として5000円(初回はお試しですので、未納でも使うことができます。)、あとは時間×700円と+若干の交通費の利用料がかかり、その利用料はすべて担当したスタッフ(キッズシッターといいます)の報酬となるシステムになっています。 このサービスができたのは去年の6月です。アイディアは自閉症のお子さんのお母さんから一昨年の末に出されたものでした。
 その自閉症のお子さんはとにかくお散歩が大好き。養護学校から帰ってきても、バスから降りた瞬間から夕方まで毎日のようにあちこち散歩をするのが日課になっていました。お母さんは、お子さんと一緒に散歩をすることがそれほど苦痛ではないにしても、やはり毎日のその生活はけっこう不自由なものと感じていました。そして、年子のお姉ちゃんに何かと我慢をさせていることも気になっていました。そこで、週に1回でも、あと何かの用事がある時にお子さんの相手をしてくれる若い元気な学生がいたらなぁと考えるようになったそうです。はじめは、大学にはり紙をして個別にお願いしようとも考えていたのですが、いろいろと他地区の話を聞いたりするうちに、「これは自分だけのために動くのはもったいない」と思うようになり、地域の一つのサービスとして、また学生のバイトの1つとして成り立たないかと、私たちのところに話を持ちかけてくれたのです。私たちも、それを聞いて、人材を発掘、養成する意味でも、ぜひ取り組みたいと思い、お金にはならないだろうけれど、損もしないように、登録制の可能なラインでの事業を錬り、1年間の試行期間も設定して、とりあえずスタートすることになったのです。はじめは、果たしてスタッフになってくれる学生がいるのかどうかという不安が一番でした。しかし、意外なことに、学生の方でもそうした生きた経験ができる活動を求めていた現実があったらしく、当初の心配をよそに約100名あまりからコンタクトがありました。そこからある程度振り分けられ50~60くらいになりましたが、とにかくキッズシッター側の準備はそれなりに進みました。次に肝心の利用の方ですが、月を追うごとに順調に件数も増え、また利用方法もいろんなバリエーションが出てきました。
 多いのは、家庭教師的な使い方です。週に1回、基本の曜日や時間、場所をある程度固定しておいて、担当者を決めて使う方法です。あとは買い物や通院時の付き添い、いろいろと用事がある時の留守番相手、そして拠点での時間預かり、プールやスケートなどに一緒に行ったりなどです。それらは、放課後や休日に家族としか過ごせなかった子どもたちにとってはお兄さん、お姉さんと遊ぶ時間はとっても貴重でハッピーな経験になりましたし、家族にとっても自分たちの時間を持つことができてハッピー。そして担当する学生スタッフにとっても自分が今まで触れたことのない相手、世界と接点持つことでたくさんの経験ができてまた、ハッピーになれました。どんな場面でもそうですが、私たちはこの「ハッピー」にこだわっています。その事業において、そこに関わる人たちがみんなそれぞれハッピーになっているのか?喜ぶのはサービスを利用する人だけではなく、提供する側も楽しんだり、向上したり、自らの糧になっているのかもとっても大事な要素だと思うのです。
 釧路にはこれに似たようなサービスが釧路市の単独事業としてのケアヘルパー制度(利用料はただ、理由は限定される)や民間託児所での時間預かり(1時間500円 平日の日中だけ)などといくつかあります。施設のショートステイも名目上はありますが、市内の施設の受け入れは難しさがありますし、利用が柔軟な施設はかなり遠隔地になります。そういった地域的な背景の中でも、既存のサービスはそれぞれ課題があるからかもしれませんが、利用はそれほどありません。そして、私たちのゆうゆうクラブもまた利用が多くて多くて、困るほどの稼動ではないのが現実です。コーディネートをする私としてはスタッフの力量と私の余力を考えて、今くらいがちょうどいい依頼量だと感じている「ほどほど」状態です。それは、登録スタッフしかも未熟な学生の派遣事業という特徴をきちんと地域の利用者は理解してくれていているということもありますし、利用者の今まで培われた他者へ子どもを託すことへの不安や利用料の問題もあります。そして、私たちとしても大々的に宣伝しても満足な対応ができないので、かくれてひっそりとしている事情もあるのです。(だって、明らかに儲からない仕事ですから。。)
 実際大変なのは、依頼が急だったり、重なった時、また学生の試験期間中のスタッフ探しです。試行期間の1年を経た、今年の6月には1年間の事業を振り返り、今年の体制を考慮しつつ、現在はニーズの高かった送迎サービスを加えてほぼ変わらない形で継続して行っています。それでも、やはり常勤の担当者がいないことは制約や負担が大きいので、来年度には専属スタッフの配置を考えているところです。

3 「ゆうゆうクラブ」の特徴と役割

 そんなまだまだ未発達で開発中のサービスですが、最近、これはこれでたくさんの誇るべき特徴や役割があることに気付きはじめました。
 まず、ひとつ目には「人材養成」の要素があることです。若い学生中心の登録スタッフを活用することは、未熟ではあるけれどもたくさんの可能性を持っています。まずは、シッターとして障害のある子どもなどと真剣に付き合った学生はその貴重な経験をシッターとして仕事をしなくなった後にも、違うところへ持ちかえって、そこで活かすことができます。しかも、私たちのこだわりとして挙げた「子どもたちとの出会いを通じて自分たちの生活に活かす、シッター自身がハッピーになる」という関わりの感触は、広めてほしい大事なものだと思っています。だから、障害のある人たちや子育てへの理解が広がる有効なシステムだと感じています。そして、シッターとして関わった学生が卒業後に私たちのところに即戦力として就職するという、事業者としてもありがたいことも起こっています。
 そして、もうひとつ大きな特徴は「何でもあり・何とかなる効果」です。言葉の通り私たちのサービスは一応、料金や規約などありますが、基本的には何でも相談にのるし、無理と思われるようなこともあらゆる方法を模索して駆使して、何とかするという姿勢があります。これは、目の前にいる困っている人を何とかしたい!という気持ちももちろん大きいのですが、それと同時に、貴重な市場調査のチャンスになっているのです。地域に住む人たちがどんなサービスを求めているのか、それはどれくらいひっ迫しているか?そして、どれくらいの値段だったら使ってくれるのか?などなど、いろんな地域のニーズが明らかになっていくのです。依頼を断わらないで、変則利用でも裏技利用でも、例外なんて当り前、そして必要であれば他のサービスを紹介したり、調整することで、「あそこにとりあえず言ってみようか」という気持ちになってくれたら。。家族が長年培ってきた諦めの気持ちを少しずつでも捨てていってくれたらと切に思うのです。
 そうした「何でもあり・何とかなる効果」で明らかになってきた具体的なことをいくつか紹介したいと思います。
 まずは、一般子育てへのニーズです。ゆうゆうクラブは対象を障害のある人、子どもに限っていません。一般の子どもでもいいのです。これは、もともと私たちの団体が障害児を中心に据えながらも「障害児の子育てもふつうの子育ても基本は同じ」という理念を持ちつつ発足した背景があるためです。ヘルプが必要なのはどんな子育ても同じなので、助けを必要とする人にはお手伝いしたいし、その垣根のないところからまた新たな出会いや、自然な触れ合いが広がっている効果もあります。更に不登校の子どもたちの居場所も併設していることで、不登校の子どもたちやひきこもりの人たちのニーズも高いことが明らかになりつつあります。とにかく、必要であれば対象は選ばないのがモットーなのです。
 次に団体利用の増加です。これは、講演会や研修会などイベントを開催する時にそれに参加する人たちの子どもさんを預かる仕事です。これは、正規の料金とは別でその時その時で受けるのですが、例えば、何月何日日の何時から何時までの何時間、子どもさんが10名程度来る予定なので、スタッフを3名お願いします。報酬はひとり2000円出せます。というような依頼をイベントの主催者から受けて、それでシッターに募集をかけて、その報酬で申し込んでくれた人を派遣する仕組みです。だから、時には全くのボランティア依頼の時もあります。この利用がここ1年間で非常に増えて、特に公の機関、釧路支庁、保健所、市の文化振興財団、などから正規の料金(またはそれ以上)依頼が来るようになったことはニーズの高さを感じています。団体利用が重要な理由としては、先ほどお話した「ハッピー」が更にもうひとつ増えることが挙げられます。子ども、家族、シッターに加えてイベントを主催する人たちも参加者の拡大というハッピーを得ることができるのです。その意味でまた、たくさんの人たちに意識を広げる大事な仕事だと感じています。
 そして、柔軟なサービス、サービスの変化でたくさんのニーズが発掘され、それによって新しいサービスへ発想されたり、実際作られたりしています。例えば、長期休暇になると時間で預かってくれるという噂を聞き付けて、仕事の依頼がきます。でも、話をしているとできれば毎日預かってほしいのだということになります。でも、そんなことをするととんでもないお金がかかります。そこで、作業所との調整で、夏休み期間内だけ作業所に臨時のスタッフを配置して、数人の枠を設け学齢時を受け入れるサービスになりました。利用料は、1日2000円オプションで給食500円、送迎500円でした。
 また、ニーズは利用者側からだけではありません。スタッフからも意見や希望が出てきました。学生の中には、「自分はお金をもらっていることに違和感を感じる」ということ言う人も出てきました。また、遠くの場所へとわざわざ仕事へ行く時に、近くにちょっと手の空いた人がいたら。。と思うこともあります。そして、ガイドヘルプの仕事のときには学生は一緒に楽しんで、時間を過ごすことで食事代や交通費、そして時給までもらうことへの抵抗を口にしました。それは、極自然な感覚だと思うのです。そうしたお互いが抱く自然な感覚を大切にしたくて、ボランティア活動推進事業や、お友達紹介事業、また発想を変えて一般の人に障害のある子どもや人を楽しい時間を過ごし、世界を広げる手助けをするスタッフとして派遣しようかなどいう、愉快な企画にも繋がっています。また、もっと小さな地区ごとに地域ヘルパーのような制度があればいいね。などなど夢や希望はどんどん膨らんで行きます。
 

4 「ゆうゆうクラブ」って何だろう?

 こうして、お話していくと一体「ゆうゆうクラブ」って何なのか?とやっている私もわからなくなっていきます。そして、実際にやりながらも「ゆうゆうクラブって、レスパイトですか?」とか「ガイドヘルプですか?」などと質問を受けることがあります。そのたびに私はうっと言葉に詰まってしまいます。「うーん、レスパイト?ガイドヘルプ?ファミリーサポート?余暇支援?遊びの家庭教師?一時預かり?それとも、パーソナルサービス?タイムケアサービス?」確かに、ある時、その時にはそのどれかには当てはまりはします。でも、どれも的確にゆうゆうクラブを表している言葉ではく、その場面での副題であるような気がするのです。
 じゃあ、一体なんなのかを考えた末、とてもすっきりする答えを最近、見つけました。それは地域のニーズを確かめる「リトマス試験紙事業」です。確かに、ゆうゆうクラブは直接人的なサービスを提供するのですから直接支援です。ですが、それはむしろ地域のニーズを掘り起し、把握するための手段になっていることが多いのです。
 ゆうゆうクラブを運営しながら、現実としてひとつはっきりとしてきたことは、障害のある人たち、そして生活に困難を抱える人たちの当り前を保障するものが、今の社会にはあまりにもないという現実です。そして、その当り前ではない暮らしで折り合いをつけている家族や当事者たちのたくさんの諦めでした。これだけの多様なバリエーションで依頼があることは、逆に言うと他にそれらに対応できるものがないことをはっきりと示していると言えます。
 本来、こういった形の時間を切り売りする個人的なサービスは日常的な生活の隙間をうめるサービスだと考えています。だって、実際に1時間700円かかるわけですから、当り前の生活を買うとするならばあまりにも高すぎます。当り前の生活を支えるサービスは他にもたくさんの形があり得るのです。ホームヘルプサービス、学童保育、余暇活動、保育・教育の充実など、課題がたくさんあるのです。でも、今の釧路のにはそれらは十分にというかほとんどありません。つまり、隙間というものがないのです。だから、隙間をうめることなんてできません。まずは、隙間の作ることから始めなくては、というのが実感です。
 それに、所詮私たちのような一NPOが直接できることなんてしれています。だからといって、私たちが事業規模を拡大し、サービスの量を増やすことも決していいとは思いません。限られた人や限られた空間での支援では障害のある人をはじめとした地域でいろいろな困難を支えることは不可能であり、特定の人間の努力と犠牲で成り立たせるのなら、それは組織の自己満足にすぎなくなってしまうし、組織の持つ限界でもあると思っています。
 だからと言って、公的なサービスが整えば万能だとは決して思っていません。生活を支えるのは公的なサービスも含め、施設、市民活動、ボランティア、そして近所知人の助け合いまであらゆる社会資源のネットワークの力です。そのネットワークこそ私たちが目指し、この会社(NPO)を立ち上げた趣旨なのです。
 そうした意味でたくさんのヒントをくれ、課題を提供してくれる「ゆうゆうクラブ」は大切な存在と言えます。「リトマス試験紙事業」として、あくまでも柔軟に、そしてできるだけたくさんの人たちを巻き込んで、今後も進めて行きたいと思います。
 「サービスづくりは地域づくり」。今地域で必要なサービスをつくり提供することは、必ずや「地域をどう作っていくか」という大きなテーマにぶつかります。
 自分たちや子どもたちを育んでくれる地域が素敵な魅力ある地域になっていくことを願って、これからもたくさんのハッピーの種をまき続け、それの花が咲かせ、実を結ぶことを思い描きつつ、柔軟なサービスを楽しく模索していきたいと思っています。

(日置真世)