北海道の市民活動をネットワークし、応援するマガジン『NODE』7.8月号に寄稿した原稿を一部変更したものです。設立経過が良く分かります。23年前のことですが、何も変わっていないような不思議な気持ちになります。

障害児を持つ親たちの子育てサロン 
『親が元気なら、子どもも元気』

 釧路を中心として活動する「地域生活支援ネットワークサロン」は、文字どおり誰もが住み慣れた地域でいきいきと生活できるような支援のネットワークを作ることを目的としています。この活動は、子どもの健やかな成長を願う『マザーグースの会』が単年度助成を受けて去年の6月に開設した『療育サロン』の活動がベースとなっています。

 『マザーグースの会』は1993年に障害児を持つ親が中心となり34名で発足したグループです。定期的に集まって、子どものことや自分のことを語り合ったり、リトミック教室やプール教室を定期的に行ったり、会報を発行したり、といわば障害児の子育ての自助グループ的な活動を続けて来ました。活動の基本にあるのは「親が元気なら、子どもも元気」。一人でいると暗くなってしまうようなことでも仲間と思いを共有し、楽しいことを一緒にやることで、親も子も元気になれる、そんな不思議なパワーを実感しつつ徐々に会員を増やしていき、今では釧路を中心にして350名あまりになりました。

 こんなマザーグースの会にとって大きな転機となったのは、一昨年の9月に『くしろ圏育児・療育ガイドブック みんなのゴキゲン子育て』を発行したことと、去年の6月に『療育サロン』を開設したことです。

 「みんなのゴキゲン子育て」は障害を持った子どもの子育てを中心としながらも子育て全般も含めて必要な情報を集めたガイドブックです。当事者である私たちの熱い思いと様々な方たちの温かい協力を得て、約1年かけて完成しました。当初のイメージを遥かにこえる三章だて全150ページの力作になり、仕上がりも上々で、初版の2800冊は2ヶ月で売り切れ、慌てて更に2000冊を増刷しましたが、1年半あまりたった今では残部が100冊あまりという評判ぶりです。この本の出版は、できた本そのものという成果とは別に更に大きな成果をもたらしました。それは、製作の過程でできていったネットワークです。もともとマザーグースの会には保健婦さんやお医者さん、療育関係者や教育関係者や行政の方たちも会員として多くいましたが、実際に一つの目的のために力を合わせることはありませんでした。しかし、このガイドブックに関しては各方面からの意見を聞き、知恵を借り、原稿を快く書いてもらい、更に宣伝、販売まで多くの立場の人たちが自主的に関わりを持ちました。これはまさにネットワークによる共同作業だったのです。しかも製作の主導はあくまでもマザーグースの会がとり、それに対して専門家と呼ばれる人たちが得意分野で協力を惜しまないというスタイルが作業の円滑化と内容の充実を実現したと思います。このスタイルでの成功はその後の『療育サロン』の開設と反響、NPO法人化へとつながっていく大きなきっかけとなったことは間違いありません。

 そうしてできたネットワークの大切さを実感した私たちは、社会福祉・医療事業団による200万円の助成金を受け『療育サロン』を開設しました。ガイドブックの反響から、子育て(特に障害を持った子どもの子育て)の情報を把握できる場が求められていることは実感していました。いろいろな人たちが得たい情報が集まっていて、いつでも好きな時に行けて、しかも人がいて温かく迎えてくれるような『人と情報のたまり場』があったら…そんな思いを抱きつつ企画し、実現したのが『療育サロン』なのです。

 拠点も幸いにして移転する予定の幼稚園の一室を借りることができ、去年の6月にスタートしました。『療育サロン』での活動はまずスタッフが平日の日中に常駐し、いつでも誰でも来ることができる体制にすることから始まり、そこで来る人たちが求めていることを探り、その中からできることから具体化していきました。電話相談、対面相談、宿泊研修会や講演会などの企画と運営、情報の提供、会合の場として使ってもらうことで情報交換したり、マザーグースの会以外の親の会や障害児者に関わるグループとの交流なども行いました。『療育サロン』はいわば情報や人のコーディネートの場であるといっていいと思います。

 11月からは幼稚園の大きなホールを活用して、週に2回『親子サロン』をスタートしました。これはいわば室内の公園のようなもので、親子が自由に遊びに来ることができる場を提供し、そこに保育経験のあるスタッフ(私たちは“エプロンおばさん”と呼んでいます)が温かく見守るものです。意外に「何もしないで、温かく見守る」ことが受け入れられ、気軽に遊びに来て、親子ともども元気に帰っていく姿が毎週見られます。また、療育施設に通う以前の子どもたちの遊び場として活用されることもあります。

 こうして『療育サロン』は徐々にニーズが広がり、利用も多様化し、認知も広がっていきながら今年の3月に助成は終了しましたが、これまでの活動から見えてきた様々なニーズや今後への展望から年齢や障害など対象を広げ新たに「住み良いまちづくり」を目指す観点を重要視し、名称を「地域生活支援ネットワークサロン」と改め、マザーグースの会とは分離し、独立した形で再スタートしたのです。同時に現在NPO法人化へ向けての準備をしています。活動内容もそれまで行ってきた「療育サロン」「親子サロン」などの子育て支援の活動をベースに進化、発展させて以下のようになっています。

・療育サロン…障害を持つ子どもの子育てに関する相談、コーディネート、情報提供、情報交換など。(平日9時から17時まで)

・親子サロン…親子に自由な遊び場を提供するとともに、遊び方など子育てに関する気軽な相談場所にもなる。(週に2回)

・ゴキゲン子育て相談…小児科医による子育て相談。(月1回の予定 6月22日開始)

・放課後個別サロン…主に障害のある学齢期のお子さんを対象に放課後に個別対応する。

・市民グループの事務的業務などの代行…他の市民グループなどと情報交換するとともに、事務的な業務を手伝ったり、助成金に関する情報提供などする。

・ゆうゆうクラブ…幼児および障害を有する子ども(大人も応相談)の時間預かり。ただ、預かるという意識ではなく「一緒に楽しい時間を過ごす」ことを目的とする。預かり手を募り、育成し、利用者に紹介する。(現在準備中 6月開始予定)

・社会資源創造企画推進…上の活動をもとに得られた情報やノウハウを活用し、誰もが地域でいきいきと生活するために必要な社会資源を考え、企画、推進する。

・ネットワークの推進…ネットワークづくりの基礎となるようなセミナーや講演会などを企画、実施する。

 これ以外に、地域生活支援のための基金の設立、市民によるまちづくりプランの作成、福祉関係のニーズ調査や研究等も必要に応じて行う予定です。今のところあまりお金になりそうな活動はありませんが、福祉制度の基礎構造改革も見越して、長期的な展望をもって展開したいと考えています。

 このたびNPOを選択した理由はいろいろありますが、①横割りの考えで実行できる主体になることができる。(行政の縦割りでは何ごとも進みません)②周囲に対して目的が分かりやすく、援助が受けやすい。③信用が得られやすく、委託事業を受けられる可能性がある。

 などが主です。ただ、こうした考えられるメリットを実際享受できるかどうかは、ひとえに私たちの努力と力量にかかっていると考えています。何よりも、去年は200万の助成金に支えられた事業を継続するのですから、資金面が当面の課題と言えます。もともとの活動が子育て支援と福祉的な支援ですから、サービスの利用者からのお金で事業展開することは困難です。でも、スタッフにはそれなりの報酬を考えたいし、最低限の運営費は自前で生み出せなくてはNPOにする意味がありません。とりあえずは事業を工夫、拡大すること、助成金、寄付によって資金を集めようと考えています。資金対策は厳しい面もあるかもしれませんが、あまり深刻にならずに、活動そのもの質を高めることにもなりますし、広く活動を知ってもらう効果もありますので、他団体とも情報交換しながら、今後も知恵を絞り、楽しく取り組みたいと思っています。

 「地域生活支援ネットワークサロン」はもちろん「誰もが住みよい地域」が実現することを心より望んでいます。しかし、「誰もが住みよい地域」と一言でいっても、その中身は多岐にわたり、一言で言えるものではないし、限られた人たちで実現できるものではありません。ただ、私たちが一つ確信しているのは『どんな人でも、主体的に生きる力をもっている』ということです。一人でも多くの人が自らのもつ力を発揮できるような地域とはいったいどんな地域なのでしょうか?私たちは地域生活を直接的に支援するばかりではなく、地域生活を支援するために人やモノや或いは金(そこまでいけるかは分かりませんが)に関する情報を整理し、コーディネートしたり、試行したりしながらまちづくりを推進するいわば『触媒』の役割を果たしたいと考えています。ひとりひとりが望んでいる住みよいまちへの期待を拾い集めて、確実に実現へ向けての指針と姿勢を示すことができる活動をして、夢を形にしていくことの喜びをたくさんの人たちと共有したいと思っています。 

(日置真世)