急激に事業規模が拡大した時期に、市民活動としてのNPOの本質について解説した原稿です。20年近く前に書いたものですが、最後の方で書いている「自分の人生をつかみ取って行く人が増えてほしいと思っています」という願いがまったく変わらないことを再認識しています。最近ではネットの居場所ポータルサイト死にトリを通じて、出会い、つながる人たちとともに社会の在り方や自分たちの生き方の模索が続いているなぁと改めて感じています。(日置)
たくさんの当事者の思いから「覚悟」のスタート
地域生活支援ネットワークサロンは誰もがいきいきとした生活を送ることができる地域づくりを目指したNPOです。障がい児を持つ母親が中心に活動していた「マザーグースの会」が前身となり、2000年4月に事業体として独立、同年12月26日にNPO法人化した経緯があります。
発足当初のメンバーは障がい児の家族、本人、仲間など、当事者の立場の人たちが多く、普段の生活の中で、たくさんの不安や不満、疑問や矛盾を感じていました。そうした仲間の思いが集り、誰もが希望を持ち、自分らしく生活できる地域を実現したいと思ったことが設立の背景にあります。
発足当初は、移転後の幼稚園の一室を借りて、障がい児を持つ母親二人が活動員として常駐し、人と情報のたまり場を開放するというささやかなスタートでした。しかし、ささやかな中にも「覚悟」はありました。それは、自分たちの意志で何かをするのだという「覚悟」です。福祉の対象者として保護されるような存在としてではなく、地域を支える担い手になろうと決意しました。同時に、地域のどんな誰でも、役割を持ち、力を発揮することが地域を豊かにすることを確信して、そうした環境をつくり出すのが自分たちの目標だと思っています。
アメーバーNPO?
ネットワークサロンの最大の特徴は、アメーバーのように自在に形をかえたり、増殖したりすることです。具体的な事業目標もなく、ささやかにはじまった活動ですが、無意識のこだわりがありました。それは、自分たちのやりたいことを軸に事業をやるのではなく、とことん「地域のニーズ」に寄り添った事業展開をしていくことです。
相談、たまり場事業をメインとして地域の情報収集やいろいろな人たちとの交流を積み重ねるうちに、「必要なこと」「本当に求められていること」が見えてきました。事業はその見えてきたことに基づいて、いろいろな手法を駆使しながら、必要とされているものは必要なときに実現し、必要のないことはやめ、役割が変われば形を変えるという具合に展開しました。その結果、発足2年目に小規模作業所を開設したことを皮切りに、事業も職員も拠点も増え続け、知らないうちに大きな事業型NPOへと成長していきました。設立から4年あまりたった2004年6月現在で、釧路市内に10の拠点を構え、常勤職員が50名あまり、年間予算規模が2億円弱の巨大な事業体となってしまいました。まさに、アメーバーのような成長ぶりです。支援費事業(知的障害者デイサービス2ケ所、児童デイサービス4ケ所、居宅介護事業所、グループホーム)を財源的な中心事業としながら、小規模作業所2ケ所や釧路市からの委託事業などの地方公共団体からの委託や補助事業、そして必要とされながらサービスとして一般化が難しい隙間をうめる自主事業や地域のニーズを掘り起こす試行的な事業で構成。理念達成を最大限重視しながらも、経営を成り立たせるために、両者のバランスをとりながら、かなり綱渡りの事業展開をしています。これだけ組織が肥大した今は多くの事業を複合的に運営することで全体を成り立たせている状況です。
よく事業規模の大きさや急成長ぶりから「どうして、そんなに事業を拡大できたのか?」と聞かれることがありますが、いつも答えに戸惑ってしまします。なぜならば、今まで事業拡大を目指したことが一度もないからです。事業の姿は単なる結果であり、私たちのやってきたことは地域のニーズを吸い上げ、必要なことを積み重ねていくことだけでした。つまり、ネットワークサロンアメーバーは地域の栄養をいっぱい吸い込んで増殖し続けただけで、それはすなわち地域がそれを求めたの結果なのです。
主体の増殖~「地域とつくりあげる」
地域主体の事業展開をしていくうえで大切にしているのは、利用者や関係者と共につくりあげる姿勢です。事業のほとんどには「産みの親」がいます。その事業がスタートするに至る過程には、その実現を願い、求めた人が必ずいます。逆に言うと客観的、総合的に必要だと思われる事業でも、それを願い求める人が現れたり、主張したりしない限り、着手することはありません。主体はあくまでもそれを求めた当事者からスタートするからです。必要なものは誰かが何とかしてくれるのではなく、気づいた当事者がアクションを起こさなければはじまらないし、当事者が意志を持たないと実現しない、でも意志を持ったら必ず実現するんだ、ということを証明したかったのです。ネットワークサロンという組織はその主体を最大限応援する事業体なのです。
事業の形や大きさにかかわらず、ネットワークサロンの存在意義は地域に生きる主人公を増やし、その主人公を応援することだと思っています。それは、サービスの利用者だけではなく、連携する関係者だったり、そこで働く人であったりもします。現在、私たちのサービスを利用してくれる人は毎日100名以上になり、関係機関も幅が広く、働く人も50名を越えました。でも、人数や金額で公益性は測れません。私たちの公益性は市民の主体形成であって、地域の担い手を増やすことにあると考えています。決して誰もが不自由や不満を感じず暮らせる地域を実現することではなく、不自由や不満を認識し、表現し、何とかしていく人たちで構成する地域をつくることなのです。サービスやシステムはそれの担い手や支える人そして利用者が自律し対等な関係を築いてこそ、成り立ち、そして発展します。だから、ネットワークサロンが存在することで、自分の人生をつかみ取って行く人が増えてほしいと思っています。人と人が繋がることで、新しい生き方を開拓する人が増えてほしいと思います。嬉しいことに、ここ数年で夢や希望を持ち、自分の生き方を語り、模索する人が多くなっています。そして、一緒に地域づくりをする関係者も多くなったと思います。働く人たちもいきいきとしてきました。だから、今後の目標も夢もそれを求め続けることであり、事業展開や事業規模の目標はありません。見える姿は時と場合の必要に応じてこれからも変わり続けることでしょうが、思うところは変わりません。それがネットワークサロンだと思っています。
(日置真世)